切土補強土工 

切土補強土工法を公共工事に適応する際に、使用されている図書は主として下記の3図書である。
① 切土補強土工法・設計施工要領 平成19年 編集 高速道路3社  http://shop.ri-nexco.co.jp/goods/1321843222596/
② 道路土工 切土工・斜面土工指針 平成21年 編集 日本道路協会  https://www.tokyo-kansho.co.jp/asp/book/pub/?pub_id=30&genre_id=1
③ 地山補強土工法・設計施工マニュアル 平成23年 編集 地盤工学会  https://www.jgs-shopping.net/products/detail.php?product_id=60008
本工法を道路斜面に適用し、工法を開発したのは日本道路公団であり、道路切土斜面に幅広く前記①の設計手法が適用されているため、本文は①を主な引用図書とする。なお、前記③の地山補強土の名称は実質的に切土補強土と同じものであり、市場単価で使用される「鉄筋挿入工」や全国特定法面保護協会が使用している「ロックボルト工」も、名称は異なるが同じ意味である。

1、概要

本工法は、切土のり面の補強土を目的として、比較的短い棒状補強材を地山に配置し、主に補強材の引張力によって切土のり面を補強する工法である。

1)基本構造

本工法の基本構造は図-1に示すように、補強材、注入材、頭部、のり面工で構成される。一般的に、補強材には異形棒鋼(SD345 ネジフシ棒鋼)などが使用され、注入材にはセメントミルクが使用される。

2)特徴

補強材が軽量で、施工機械も軽量で小規模なので、施工の省力化を図ることが出来る。標準勾配より急に施工できることから、用地、掘削土量の軽減を図ることができる。

3)適用分野

一般的には3~4m以下の崩壊厚さの崩壊を防ぐことを目的に使用されている。下記の3分野に適用されている。

図-1 切土補強土工の概念図

図-1 切土補強土工の概念図(1

3、施工手順

1)削孔

削孔は下記の方法が主に用いられている。
① 市場単価の「現場条件Ⅰ」適用 
 削孔径65㎜ 単価6,700(円/m)程度    

現場条件Ⅰ クレーン使用

現場条件Ⅰ クレーン使用

現場条件Ⅰ バックホウ使用

現場条件Ⅰ バックホウ使用

② 市場単価の「現場条件Ⅱ」適用 
 削孔径65㎜ 単価11.000(円/m)程度

現場条件Ⅱ

現場条件Ⅱ
仮設足場と軽量ボーリングマシン使用

③ 市場単価の「現場条件Ⅲ」適用 
 削孔径42~50㎜ 単価13,500(円/m)程度
 削孔長2.0m以下

現場条件Ⅲ ロープ足場使用

現場条件Ⅲ ロープ足場使用

④ 国土交通省積算基準
 削孔径90㎜ 二重管削孔 単価13,000(円/m)程度
 削孔長50m程度まで

ロータリーパーカッション使用例

ロータリーパーカッション使用例

⑤ 足場を使用しない削孔法 
 削孔径65~90㎜ 二重管削孔可能機種有り
 単価9,500~13,000(円/m)程度
 削孔長7~15m程度まで
 詳細は下記の機関にお問い合わせください。
 ・SD工法
 http://www.sd-method.com/
 ・無足場工法
 https://kensetsu.ipros.jp/company/detail/2047571/

足場無しで施工 SD工法

足場無しで施工 SD工法


2)補強材挿入

補強材にスペーサーをセットして、孔内に挿入する。
スペーサーの間隔は最大2.5mと規定されている(1。    

挿入前の補強材

挿入前の補強材
白いパッカー装着した例
黒い注入管も装着

補強材挿入中

補強材挿入中
(LL補強土の例)


3)グラウト注入

①グラウト注入材と使用量
グラウト注入材は、下記が基準として示されている(2。    

  ポルトランドセメント 水(W/Ⅽ) 混和材
重量配合比 1 0.5~0.55 必要量
1㎥当たりの配合 1,230Kg    

グラウト注入材の使用量は、下記の式で求められる。

V=D×D×3.14×Ⅼ×(1+K)÷4000000
V:グラウト注入量(㎥)
D:削孔径(㎜)
K:ロス率
Ⅼ:削孔長(m)

 

②グラウト材が漏逸する時の処置
 下記の処置法がある。
 ・セメントミルクを濃くする。
 ・セメントミルクに砂を混ぜる(径20㎜の注入管が最低必要)
 ・セメントミルクに漏逸防止剤を混ぜる。https://isabou.net/sponsor/sankocc/01toku.asp
 ・補強材にパッカーを装着する。https://www.sansui-n.com/products/doboku/item08/

4)頭部処理

補強材の孔口付近に出来る空間に、固練りモルタルを充填し、補強材を固定るためのプレート・ナット・キャップを取り付ける作業である

img

 

処理中

処理中

4、補強土工の課題

1)現場打ち吹付法枠

 

切土補強土工と組み合わせて使用されることが多い「現場打吹付法枠」は、モルタルに透気性があるため、内部の鉄筋は早期に錆びる。このため、早い箇所では数年以内に本来の機能を消失する。    

建設後4年で破壊された法枠内部の錆びた

建設後4年で破壊された法枠内部の錆びた

建設後17年で破壊された法枠

建設後17年で破壊された法枠

今後の建設は耐久性がある法面工に代える必要がある。


2)土壌との接触で腐食するメッキ

 土壌と接すると、メッキは急速に消耗する。右図は、亜鉛付着量600g/㎡のメッキの消耗量である。1年間に16~33g/㎡消耗しているので、JIS規格最大のメッキ量550g/㎡の場合は、通常24~25年耐用が期待できるとしている。 したがって、土と触れたメッキ製品では急速にメッキの消耗が進む。    

建設後17年で破壊された法枠

建設後17年で破壊された法枠


3)海岸部のメッキの耐用年数

 JIS規格最大のメッキ量550g/㎡の場合で、下記が示されている4)。特に海岸地帯では耐用年数が短い点に留意する必要がある。
  ・海岸地帯    25年の耐用年数
  ・都市・工業地帯 62年の耐用年数
  ・田園地帯    113年の耐用年数

 
20年程度経過した状況(海岸から約50m地点)

20年程度経過した状況(海岸から約50m地点)

img

 


4)孔曲がり

 地盤中に柔らかい地層と硬い地層があると削孔中に穴曲がりが発生する。このため、真っすぐな補強材を挿入すると、補強材が地盤と接触し、あるいはグラウトの被りが薄い箇所が生じる。この様な箇所では劣化が急速に進行する。

補強材の上側は地盤と接触し早期劣化(メッキ補強材でも25年程度経過後には急速に錆びる)

補強材の上側は地盤と接触し早期劣化(メッキ補強材でも25年程度経過後には急速に錆びる)

5、これからの強土工

これらの課題に対応するための手段を以下に紹介する。

1)法面工

高強度コンクリート受圧板 https://kensetsu.ipros.jp/product/detail/2000361589/
100年以上の耐久性がある金網 https://tyoju.co.jp/_ir/index.html

2)孔曲がり

最も優れているのは、パッカーの使用である。パッカーを使用しなくてもエポキシ樹脂塗装鉄筋の場合は、補強材が土壌とふれても急速な発錆びはおきない。

3)補強材の腐食

補強材に炭素繊維ケーブルを使用した例や、エポキシ樹脂塗装御鉄筋をポリエチレンシースで保護した事例もある。
 エポキシ樹脂塗装御鉄筋をポリエチレンシースで保護した事例(長寿補強土新聞p1)
 https://tyoju.co.jp/_shinbun/180501.pdf
 炭素繊維ケーブル(長寿補強土新聞p2)
 https://tyoju.co.jp/_shinbun/171001.pdf

引用図書

これらの課題に対応するための手段を以下に紹介する。

1)切土補強土工法設計・施工要領 NEXCO 平成19年

2)土木施工単価 令和元年7月号

3)溶融亜鉛めっきの耐食性 亜鉛めっき構造研究会 日本溶融亜鉛鍍金協会

     https://jlzda.gr.jp/mekki/pdf/youyuu.pdf

4)一般社団法人 日本溶融亜鉛鍍金協会